昨日よりも早い朝3時半に起きて、身仕度をした後4時過ぎには迎えのタクシーに乗り、ホルへ・チャべス国際空港に向かう。早朝のリマは車も少なく静まり返っていたが、空港には既に多くの車が停まってあった。2日間お世話になったドライバーに別れを告げ、ターミナルビルに入った。最初に空港内の郵便局に直行。リマの空港内の郵便局は24時間営業している。
わが地元の関空さえ夕方になると早々と窓口が閉まってしまうのを見ているから、リマの空港郵便局員は本当にまじめだ。また、旅行者にとって非常に嬉しいサービスだ。ただ、時間帯が早いせいか、切手を2、3枚申し込む旅客を除いて、自分以外の旅行者の姿は見ることが無いほど静かだった。ヨーロッパから南米にわたるおよそ3週間の旅程を通じで溜め込んだガイドブックやチラシ類、それから一部の衣類、さらには都市地図や最後まで残ったお土産など、箱一杯に詰め込んで事務所に向かう。結局、最初に梱包していたスペイン郵便のパックには入りきれずに、1サイズ大き目のペルーの郵便パックに移し変えて実家に送ることになった。
出発までの大きな仕事はとりあえず終え、身軽になったところで搭乗機のチェックインに向かう。朝早く、定刻7時の出発だったので緊張していたが、ペンシオンを早めに出たおかげで空港内では落ち着いて過ごすことができた。次はいよいよオーストラリアへと向かう。でも、リマからは直行便が飛んでいないため、チリのサンチアゴを経由することになる。リマを朝出てサンチアゴには昼過ぎだ。そして、同日の深夜にはそのサンチャゴから途中ニュージーランドのオークランドを経由しオーストラリアのシドニーに向かう。リマの出発は定刻で朝7時。若干遅れたような感じもしたが、ほぼ定刻でラン航空531便はチリを目指して飛んだ。
途中南米大陸の太平洋岸の近くに、パンアメリカンハイウェーと思われる一本筋が見えた。昨日ナスカまで車で随分時間をかけて往復したつもりだが、その距離をあっという間に抜け去ったような感じがした。全速力の自動車と比べても5、6倍の早さだから当然か。早朝の移動のためペンションで朝食を作ってもらうことができなかったので、搭乗時間が貴重な食事時間となる。国際線となればジュースやワイン、シャンパンも飲み放題なのだが、さすがに朝から飲むのは性に合わない。オーソドックスなスクランブルエッグと温野菜にバターロール、そしてコーヒーとカットフルーツにしてもらった(それでも随分贅沢なメニューではあるが)。
リマからは隣国チリのサンチアゴを拠点空港とするラン航空(LAN)が就航している。確か、今自分が乗っている朝7時発のこの便が最初の便のようだ。この航空会社はチリのみならず、南米各国にも関連航空会社を持つ、一大航空会社だ。日本には航続距離の関係で直行便が来ないため知っている人は少ないと思う。でも、南米の代表格として機内サービスも充実している。ちょっと話は外れるが、星と波を形採ったロゴマークは、今風に言う「ゆるロゴ」っぽく可愛らしい形をしていて、個人的にお気に入りだ。
リマからサンチアゴは航路のほとんどが南米大陸の東岸を擦れるように飛んでいるため、思ったよりも景色が単調だった。チリに入ってからも(上空から国境線が見えるわけではないので、あくまで客室内のモニターと飛行時間から割り出した推測だが)、あまりに景色の違いを感じなかったので、どうなっているのだとうかと、眠い目をこすりながらも、時々窓越しの景色を除いてみた。正味のフライト時間はわずか3時間20分だが、時間の割りにこれほど遠く感じるのは、この旅でも昨日のナスカ往復を除いてあまりない。
その長い(というようりも長く感じた)空の旅もいよいよ終盤に差し掛かるところで、窓の外の海沿いにそれまで見えなかった緑地が見えた。そしてまもなくサンチアゴに着陸。この都市は数時間前までいたペルーを縦断している巨大なアンデス山脈のほぼ南限にあたるところだ。サンチアゴのすぐ東隣には6千数百メートル級の山が連なっているが、200キロメートル南下したところでは5000メートル級に、さらに200キロメートル先では3000メートル級へと急激に標高を下げる。
高校の地理の時間に、この細長い国土では高山地方から沿岸部に異動すると、スキーと海水浴が同じ日に楽しめるという驚くべき話を聞いていたので、一度はこの目で見てみたいと思っていた。それにしても上空から俯瞰するだけでもこの地形は驚異である。贅沢を言うと、最南端のホーン岬にも行って見たかったが、トランジットでチリに滞在する手前、所詮無理な希望である。
でも、いまの自分の心境は「何でも見てやろう」という気になっていた。空港で1ドルも使わずに空港で10時間も過ごすのは、僕のようなカフェ好きの人間にとっては拷問に等しい。自宅から10分で行ける京都に遊びに行くときでさえ、30分の時間があったら近くのカフェに足を運ぶカフェマニアだからだ。ところが、搭乗機のチェックインも出発の2、3時間前からしか受け付けないし、空港ラウンジしても経験的に5、6時間も居座らせてはくれないだろうから、10時間も空港内に張り付くのは苦痛極まりない。
そこで、わざと入国ブースでは「トランジットではなく、(空港を出て)シティーに行きたい」と申し出た。係官からは、「いったん入出国するので空港税を払わないといけませんよ」言われたが、それでもいいと答えたら、入国スタンプを押してくれた。そして晴れて、外の空気を吸うことを許されたのである。とりあえず、乗り換えゲートよりも広い空港ターミナルに出られただけでも開放感があって大満足だったが、折角時間もあったので、サンチアゴの空港をくまなく歩いて位置関係を確認した。
その前に現地通貨への両替をしなければならない。通貨単位も相場もまったく見当がつかなかったので、近くのカフェや小売店で値札を物色して、今後半日で使うかもしれない、およその金額に見当をつけ、ATMを目指す。シティーのワールドキャッシュのカードを持っているので、現地通貨の引き出しは順調にできると思っていたが、ここで問題が発生。何と、画面がすべてスペイン語で英語表記がない。これにはがっかり。
とはいうものの、このATM、シティーの専用機ではなく現地銀行のATMだからある意味仕方が無い。日本のATMでも最近の機種こそ英語ガイダンスがあるが、一昔前は日本語しかなかったではないか、そう思えば無理も無い。引き出しにボタンを押し間違えて2、3回失敗したが、4回目で無事引き出しに成功。旅を長く続けている間に、ある意味、直感が働くのだろうか? 自分でもビックリだった。ところが、後から多めに引き出していたことに気付いたのだが…。
さて、一旦空港の外に出たら、おそらく時間を効率的に使いたいが余り、到着後の空港でのんびりするのがもったいないのが、大方の旅行者の本音だと思う。が、僕はこれまでほぼ4週間という短期間に15箇所の空港を渡り鳥のように移動しているが、到着後すぐに都心に急ぐことはほとんどない。まずは、空港ターミナル位置関係やサービス施設、物販店や飲食店、市街地へ向かう交通機関へ出入り口など、あるいは次の搭乗機の専用カウンターなどできる限り到着時に情報を収集し、頭に入れておく。そうすることで、現地での旅程を終えてから時間が押し迫っている状態で空港に戻ってきても、多分なストレスを抱えることなく、落ち着いて対応ができる。
それに加えて、到着後の空港で多少の時間を過ごすのは他にも利点がある。現地でしか手に入らない観光情報を手に入れたり、本屋で宿泊先の場所や周辺の観光地を確認できるので、安価で確実な移動手段を選ぶことができて、結局目的地に早くつくことができることもある。「急がば回れ」は、何も瀬田の唐橋だけではないと思う。
さらに僕が到着後の空港で比較的に長く過ごすのは休憩や探索だけではない。今回の旅のように、とくに英語が全く通じない(可能性が高い)国を訪問するときにも、国際空港の施設だけは世界中の旅客の便宜のため、あらゆる施設に英語を併記しているところが多い。僕はメモ帳まで作るほど熱心ではないが、特に重要な施設、食事をするところや、トイレ、出入り口や、郵便局、万一のときの救援所など、いざというときに生命線となるような基本的な現地語を一通り勉強がてら、あちこちまわっているのだ。当然、自分は賢いと思っていないから勘違いすることも多々あるが、空港で現地語を「速習」していたおかげで随分助かることもあった。今回のように10数ヶ国を一度に回るとなると、すべての言語を事前に身につけておくことは不可能だから、街に出て見覚えがある単語に出くわして目的を達成できれば、想像以上の快感だ。
話がすいぶんそれてしまった。そころで、空港の広いターミナルビルを回っていると、ターミナルの先端部分に5階建てだろうか、羽田空港の新しい第2ターミナルに何となく似た、吹き抜けの円形スペースが一際目立ったので行ってみた。そのほぼ中心には数えたら60個近いスーツケースが塔の形で立っているのが一際目立っていた。その周辺には10個ほどのスーツケースも無造作に置いてある。「塔」の全長となると5階分を目一杯使っていて、旅客の目を釘付けにするインパクトさである。まさか旅客の持ち物ではなかろう。しかも、こんな高さのものが頑丈で倒れる気配すらないとなれば、中心にポールか鉄骨でも入った本格的なオブジェだろう。チリの人々から遊び心が感じられる。これなら、町へ出ても楽しそうだ。
それに、もう一つびっくりしたのは、その円形の周辺に売店が立ち並んでいるが、青い看板が目印とした本と小物売場が一体となった比較的大きめの店の一角に、異彩を放つピンク色のブースがあったことだ。
日本からの直行便がなく、空港にも日本人を全く見かけなかったこともあって、親近感が湧くような、不思議な気分になった。ひょっとしたら、われわれ日本人にはほとんど知られていないと思うが、日本のアニメやソフト文化が、この国では意外に浸透しているのかも知れない。
空港探検はこの辺にして、ターミナル中央のインフォメーションで情報収集することにした。話がそれるが、僕の出身地から最も近い関西空港では概ね5時間以上のトランジット(乗り換え)待ちを対象にした、3時間コースの「トランジット・ツアー」があり、好評を博しているようである。サンチアゴのようなトランジットの多い拠点空港にも当然同じようなものがあると期待していた。インフォメーションで「トランジット・ツアー」は無いのかと聞いたら、そんな言葉すら聞いたことがないという。そもそも、僕のように10時間の待ち時間くらいで入出国をする旅客を想定していないようなのだ。
日本を代表する空港の一つである関空でも、乗り継ぎ便の素通りを危惧して、短いトランジットの間も楽しんでもらおうと工夫を凝らしていることが分かった。全世界の空港でも関空は10本の指に入る好評価を受けている調査結果があったが、空港も滑走路の拡張などのハード面の改造のみならず、利用者の利便性や快適性、満足度も含めたソフトを含めた空港大競争の時代に入っているのだろう。
期待していたトランジットツアーが無かったことが一番の誤算だった。その代わりとしてインフォメで市街地の地図と市街地に向かうバス乗り場の場所を教えてもらい、サンチアゴの市街地に繰り出すことにした。空港は暖房が効いていて快適だったが、一歩外を出ると驚くほど寒かった。リマからはさらに赤道から離れ極地に近づいているから当然のことであるが、手元の携帯温度計では摂氏2度を指していた。
リマからのフライトに乗り込む直前まで、サンチアゴの空港で10時間を待ち続けるか、それとも、街へ繰り出すか迷っていたので、とりあえず念のために防寒用のフリースとウインドブレーカーをバッグともに機内持ち込みにしておいたが、この選択は結果的に正解だった。ウインドブレーカーなしではこの寒さにはとても耐え切れないと思う。リマに到着した日も寒かったが、ここでの寒さはそれを遥かに通り超していた。地球の反対側の日本は、現在酷暑だという情報と数日前に聞いた。彼らにとっては羨ましいかも知れないが、寒すぎるのもたまらないのである。
さて、完全無計画の街歩きが始まった。まずは市街地行きのバスを探す。言葉がまったくわからないから、運と勘しか頼りになるものはない。幸い、特定の路線バスで終点まで行ったら30分程度で市街地に移動できるとのことだったので、それに乗りこんだ。
幸い、路線バスで市街地に移動できるとのことだったので、午後1時過ぎに乗りこむ。サンチアゴの路線バスは、先日のリマで見たバスとは違って、日本のバスとほとんど変わらなくて、大型で綺麗な外観と内装をしていた。空港と市街地を結ぶバスは1300ペソ、日本円では300円ほどだ。
空港からのアクセスの費用としてはリーズナブルだが、何故かレシートには$(ドル)のマークがついている。
バスを降りて帰りの空港行きバスの出発場を確認した後、空港でもらった地図で比較的観光地が集中している中心街セントロに歩いて向かう。東に停留所一つ分を行ったところが賑やかだったので、何か見どころがないか期待する。地下鉄駅の乗り換え地にもなっているロスエロエス?というところ。
近くの目抜け通りの先に僅かに大聖堂や美術館に似た建物がたくさん見えたので行ってみることにした。ところが何処へ行っても鉄扉の門は固く閉ざされている。1時間ほど歩き回ったが、大した見所がなく敢え無く退却した。手元の地図にはたくさんの建物のイラストが書いてあったので一つぐらいは開いているところがあるのかと思っていたが、結果は全敗。
まだ昼の3時を少し過ぎたくらいだったが、顔に時々吹き付ける風がやけに寒く感じられた。停留所に戻るところでたくさんの学生に出会う。彼らが続々と建物からを出て街へ繰り出す姿を見た。歴史を感じさせる建物があれば、近代的なデザインの建物もあったが、「Universidad」の文字が書いてあったから、おそらく大学では無いかと思う。この辺りは大学の街のようである。
停留所のある大通りに沿って、さらに東へ歩く。
洋服売場を縫うような場所の頭上に看板があったので、そこをいったところにブースを見つけたので入ってみると試着室だった。間違えた! 結局トイレを見つけられなかったので、すごすごと店を出て、さらに東へ歩いていく。
しばらくすると大きなターミナル駅が見えた。電車とバスがたくさん乗り入れているこの駅は、サンチアゴの中央駅のようだ。空港のバスも通っていたようだが、意識していなかったので見つけられなかった。構内は巨大なショッピングモールになっていて、欲しいものは何でも揃っていそうな感じ。真っ先にトイレに駆け込んだ。入り口には係員がいて、チップを渡さないといけない。ペルーではマークを頼りにトイレに行っていたので気づかなかったが、ここに来て初めてスペイン語でトイレのことを「Baño(s)」と言うことを知った(おそらく、旅の間に知った唯一の単語だと思う)。
ピンチを脱したところで食事ができる場所を探す。ものすごく大きいモール内だが、大半はファーストフード風の店ばかりだったので、落ち着いて食事ができるところを見つけたかった。モール内を1周半くらいしたところでレストランを見つけた。
ショッピングモールのフードコートにいかにもありそうなステーキハウスで、数種類の定食メニューがあった。そのうちの一つを頼んだが、小さなライスにポテトとドリンクを入れても3290ペソ(約750円)。思ったより安かったうえ、美味しかったので得した気分だ。清算を終えるとチケットを1枚くれた。トイレの無料券であることが分かった。これでトイレの心配をせずに、じっくりショッピングモールを散策できる。たった1時間前に覚えた単語が役に立った。
今日の夜の便で大陸を横断しオーストラリアに向かうが、今履いているのが夏用の薄いチノパンで、暑いものを持っていなかった。ジーンズを1本手に入れたかったので、衣料品店を何軒か回った。身振り手振りで何とか購入の直前までこぎつけたが、思ったよりもサイズが大きくて裾上げもできないということだったので、結局買うのは諦めた。
中央駅の裏側から賑やかな通りが見えた。たくさんの露天や市場が立ち並んでいる。歩いているだけでも活気が感じられた。日が沈みかけた頃、西のバスターミナルへ歩いて戻る。空港からの乗客を降ろしたバスは暫く休憩ででターミナルに駐車していた。2台目のバスが来たところで、前のバスの扉が開いた。バスは先ほど歩いてきた場所をあっと言う間に過ぎてゆく。
5時半過ぎに空港に到着したが、まだシドニー行きのフライトの案内がない。出発の2、3時間前まで案内があるとのこと。あと2時間は街歩きができたところだった…。安全を見て空港に早く来すぎたようだ。ターミナル内の「ダンキンドーナッツ」で1時間くらい時間を潰したが、まだまだ出発まで時間がある。搭乗案内までターミナルをぶらぶらしたあとゲートを入って、フライト直前まで出発ゲートのカフェでゆっくりくつろいだ。
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