こちらは、ガイランゲルからオスロへ向かう途中、彼女のほうはというと、オンダルスネスからスタヴァンゲルを経てベルゲンに向かう途中、その行程のうち僅か1日、偶然同じ日にこの小さな町にいる。たくさんの旅人が行き交っていると言ったらそれまでだが、こんなこともあるものだとつくづく思う。
早速、パスポートサイズのメモ帳とご対面となった。きみはどこを旅してきたんだ? まだ朝9時になる前、人通りも少なく、港はいたって静かだ。お礼でコーヒーでもご馳走するよと、近くのコーヒースタンドに立ち寄る。ここだけ店を開けていた。オーレスンの町は美しい。ぼくは日本を発つ前、世界中の景色を収めている写真集に出会って、ここの夜景の素晴らしさに魅了された。
オスロからガイランゲルフィヨルドを立ち寄るには、オーレスンを拠点にするか、オンダルスネスを拠点にするか、どちらか一方を選ぶのが一般的だ。オンダルスネスを選んだら、オーレスンの夜景を見ることはできない。逆に、オンダルスネスを選んだら、絶景の「ゴールデンルート」は通れない。どちらとも通るにはどうすればいいのかと思いついたのが、オスロから電車でオンダルスネスまで行き、ゴールデンルートからガイランゲルに入って、フェリーで対岸の町ヘルシルトまで行き、バスでオーレスンに入るという方法だった。当然、こんなルートで旅行する観光客は驚くほど少ない。道はあるが道から外れているのである。したがって、ガイドブックにも載っていないし、実際、昨日のように乗客が2人しかいないなんてことになる。
何でも見てやろう、と欲張ったつもりだったが、詰めが甘かった。北欧の夏は、極端に陽が長いということを忘れてしまっていた。写真集の夜景は、彼地で有名な展望台でとったと思われる。(そのような写真が撮れる場所は、この小さな町にそこしかないからだ) 実際、こちらに来てみると、深夜12時になっても、夜景が撮れるほど空が暗くなっていない。どうやら、訪れる時期を間違えたようだ。結局、事前に展望台の場所を調べたわけでもなかったので、昨日は行くのをやめた。
昨日ガイランゲルから同行したガイドに、オーレスンでどこを行けばよいか尋ねてみたら、「港町を楽しむなら、船で周遊したらどうか」と薦められた。こちらは、もともと朝8時過ぎに空港に向かって、10時40分発のSASでオスロにもどる計画をしていたが、メモ帳を受け取るため、思い切って午後6時半発の便に切り替えたのだった。したがって、終日オーレスンでフリーになる。彼女もルート途中のこの町で、特に行くところは決めていなかったようなので、最初に船で市内を周遊した後、時間があったら展望台に向かうことにした。チケット売場に行き、クルーズ船のチケットを買う。一人150ノルウェークローネ。二人だと225クローネだ。二人目は半額である。どこの世界も、一人旅には厳しく、二人旅には優しいのだと実感する。ちょっと得した気分がした。二人分を払って、あとで割り勘する。クルーズの行程はおよそ1時間半。途中で2ヶ所下船することができるとの情報だったので、2番目のバイキング博物館の前で下りることにした。10時発の便に乗り込むと、昨日のガイドも一緒に乗船してきた。別にこの便に乗るから合流しようと約束した訳けでもないので、またまた偶然だ。
彼は、ガイドの仕事をするため、1番目の桟橋で降りるというので、別れの言葉を交わす。他に誰も降りる乗客はいなかった。そのまま2番目の桟橋に向かう。ところが、小さなバイキング船が停泊してある展示してある博物館のすぐ近くまで来て、一瞬停船するかと思うと、みるみるうちに桟橋から離れていった。ここで降りるつもりだったのに、いったい何が起こったのか理解できない。もしかすると、事前に降りる場所を告げておかなければならなかったのか、今日は博物館が休みで停船しないのか、結局よくわからないまま、再び乗船した場所にもどってきた。それでも、ゆったりとした時間が流れる、のどかで美しい港町を楽しむことができた。
二人ともこの後、オーレスン郊外のヴィグラ空港に移動することになっている。彼女のスタヴァンゲル行きのフライトが1時間早いので、そのスケジュールに合わせて、2時過ぎのリムジンバスで空港に移動することになった。
クルーズの時間が節約できたので、彼女の案内で展望台を目指すことになった。街中を通って、展望台への入り口となる公園から展望台を目指す。1週間前のザンベジでのラフティング後の山登りよりはましだったが、結構きつい階段を登らなければならなかった。頂に着いたら、眼下に美しい町並みが見えた。もし、昨日ムリをしてでもここに来ていたら、素晴らしい夜景をみられたかも知れないと思うと、ちょっと残念なことをしたと思う。展望台から写真を撮ったあと、休憩所で軽い昼食をすませる。ついでに、彼女のデジカメのメモリーが一杯になったため、僕が持っていたアダプターを使って、パソコンにデータを移してあげることにした。「旅するモバイラー」は少しは役に立てたかと思う。展望台で小一時間過ごした後、来た道を戻って、バスターミナルへ急いだ。バスに乗り込み、空港へ。二人とも別々の目的地へ向かう搭乗手続きを終え、まだ時間があったので、空港ターミナルの小さなカフェへ行った。
時間になっても、彼女のスタヴァンゲル行きの搭乗案内が無い。このままでは、ベルゲンへの乗継にも支障をきたす恐れがある。そのうち、僕のオスロ行きの案内が先にあった。心配だったが、無事ベルゲンに着くことを祈りつつ、別れの挨拶をする。オスロへの帰路に見えた雄大な氷河の連なりは素晴らしかった。