パトモス島を昨晩出港した船は、朝7時にクレタ島のイラクリオンに入った。上陸して散策することを当初は考えていたが、連日の忙しさに疲れが出始めていた。ここはキャビンでゆっくりしておこう。11時前の出港までまどろみの中で過ごした。クレタ島から66海里、船は最後の寄港地サントリーニ島に近づいてきた。午後4時になろうとしていた頃、旧港の沖合いに停泊した。そこからはテンダーボートでバスターミナルへ移動する。
サントリーニ島は三日月形の変わった形をしている。その理由はもともと丸い形をしている島の中心にあった火山が、紀元前1450年の大噴火の際に周辺が沈んで現在の形になったといわれている。現在でも活動する活火山の島である。最近では1956年に噴火、このとき島の首都フィラは壊滅的な被害を受けた。現在、島の西側の崖上にあるこの町の建物の多くは、その噴火の後再建されたものであるという。
バスは、断崖絶壁の側面を這うように上がって、島の北部の町イアに向かう。バスを降りたところの駐車場に火山灰か砂埃のようなものを全面に被った車が止まっていた。おそらく島民の車と思われる。半年以上は洗車をしていないように見える。ガイドが言うには、この島の水事情は極めて不便で、遠くアテネなどから飲料水を移入しているそうである。この島の人々にとって、水は非常に貴重なものであり、不要不急の洗車に使うのは、せいぜい半年に1回、ということであった。世界的な絶景を持つこの島であるが、実際に住むのは大変そうだ。地球の将来がどこでもこんなことになりはしないのか、思いを馳せてみる。駐車場の前の坂を登って、ものの数分でイア村の路地に来た。
断崖絶壁に建物が所狭しと立ち並ぶ町並みに、白い壁と水色をした教会が見えた。絵はがきのような光景だ! 青い空と蒼い海の中に、白い壁の家が溶け込む。ところどころに見える透き通った水色のプールがあるのはホテル、水色のアーチ型をしたものは教会だ。ここでは普通の住宅とホテルの見分けがつかない。日常と非日常が同居する不思議な世界─。村のメインストリートのカフェに入る。通りの反対側、海沿いのカフェでは、気の会う仲間や家族連れが終わることの無い歓談を楽しんでいるのが見えた。時間がゆっくりと流れる。ここでのバカンスは最高の贅沢だ。名前も国籍も分からないが、この場所、この時間を共有できたことを嬉しく思う。
美しい時間は、本当に早く過ぎるものだ。最終のテンダーボートは午後7時半。そろそろここを去らなければならない。世界3大夕日といわれる、エーゲ海に沈む夕日をこの目で見てみたかったが、日没までいたら間に合わない。後ろ髪を引かれる想いでここを後にし、フィラの街までバスで向かう。静かなイアの町とは対照的に、フィラは賑やかな町だ。細い路地にはレストランやカフェ、バー、宝石店やみやげ物屋など、数多くひしめいている。ここからの海の眺めも美しいが、景色を楽しむのをほどほどに帰路を急ぐ。断崖の上に立つこの街からテンダーボートの待つ旧港に行くには3つの方法がある。580段の階段、ロバのタクシー、そしてケーブルである。健脚向けの階段降りはもちろん無料、ロバとケーブルカーはともに4ユーロだ。今回は時間が迫っていたのでケーブルカーに乗ることにした。出港予定の10分前、船に戻った。

5日間のギリシアの旅も、明日ピレウスに着いたら終わりになる。ピレウス港までの距離は131海里。もう残すところわずかとなった。