午前6時28分、エーゲ海に浮く2つの島の間から、朝日が昇るのが見えた。その約10分後、船はピレウスの港にさしかかり、その速度を緩めた。パソコンが入った小さなリュックをまとめ、キャビンを簡単に掃除しておく。ほどなく下船の案内があった。3泊、4日間の船旅もいよいよフィナーレだ。
今回のクルーズでは、乗員は20ヶ国から、乗客は28ヶ国から集まった。合わせて300数十人はいたと思う。地元のギリシアからの参加が多かったが、近隣のイタリアを始め、スペイン語、ポルトガル語圏、それに英語圏からの参加も多かった。日本からも2グループで合わせて20名を裕に超えていた。旅が目的とはいえ、いろんな国の人と何日も行動を共にすることはそう多くないだろう。機会があれば、いつかまた参加してみたいと思う。
初日の夕食は日本人のツアー客とご一緒させて頂いたが、話の輪に入っていくのは難しかった。というのも、世代が離れていたからだ。日本では、クルーズに対する敷居がまだ高いようで、経済的、時間的に余裕ができる年配の方が中心だ。それに比べ、欧米などの参加者は家族やカップル、あるいは僕のように一人旅の人たちにとっても旅のスタイルの一つとして定着しているので、世代があまり離れていない。2日目の夜から英語を話す外国人のグループに代えてもらったが、何故かその方が居心地が良かった。
誤解を恐れずに言うと、彼らのほうが旅を楽しむのに長けているような気がした。スタッフと一緒に主体的に楽しみをつくりあげていく姿は、この先日本が観光立国を目指すうえで大いに見習わなければならないのではないかと思うのだ。
荷物を受け取り、タクシーを捜す。既に先に荷物を受け取った人々が列をなして並んでいる。タクシーはここが稼ぎ時だと、クルーズ船の帰港に合わせて続々とターミナルの構内に入ってくるが、それでも追いつかない。そのうち、後から荷物を受け取ったツアー客が待機していたバスに続々と乗り込んでいく。やはりパッケージツアーは楽だなあと思いながら、重い荷物を引っ張りながらターミナルを後にした。
昨日船のスタッフにタクシーが拾えないときの対応を聞いていたので、いわれた場所に向かって歩を進めていると、そこに偶然路線バスが止まって待機していた。乗員にメトロのピレウス駅に行くのかと聞いたら、途中で通ると答えたので、そのまま乗り込む。料金を聞いたが、「今はいらない」とだけ言われた。ピレウスの駅に着くと、ここで降りるようにと言われた。料金は、と聞いたが、「要らない」と言われ、降りたらドアが閉まってそのまま走り出した。どうやら、港とメトロの駅の間は無料だったようだ。何か得した気分だ。
ピレウスからメトロライン1、さらにライン3に乗り換えて再び空港へ行き、これからローマを目指す。だが目的地はローマではない。イタリア南部の町バーリだ。当初は、アテネから陸路でパトラに入り、海からブリンディシ経由で、あるいはバーリに直接入ることを考えていた。しかしながら、パトラに行くのに1日、バーリに着くのは翌日の昼を過ぎるため、1日余計に時間がかかってしまう。その後のスケジュールを考えるとどうしても1日は余裕をみておきたかったので、空路ローマに入り電車でバーリに向かうことにした。
列車はイタリア半島の西側を南下しカゼルタへ、そこから横断するようにフォッジアに向かう。ここで方向を転換し、東の海岸をさらに南下。4時間40分ほどでバーリに着く予定だ。
フォッジアを出て景色をショットに収めようとしたその時、不運が起きた。写真をとった後電源をOFFにすると、レンズが前に出たまま動かない。今度は逆に電源をONにすると、レンズが収まったかと思うと次の瞬間また前に出てしまう。何度やっても状況は変わらない。
明日アルベロベッロに移動する前に、新しいカメラに任務を託し、一足先に帰国させることにしよう。バーリに着くのは午後8時をとうに過ぎる。都会ならまだしも、こんな小さな町に夜遅くまで営業している家電店はないだろう。明日の仕事が増えてしまうが、仕方がない。
8時30分過ぎ、バーリに到着。辺りを注意深く見渡すと、宿泊先の名前が書かれてあった看板を見つけた。今日は宿探しで苦労することがない。
部屋はシンプルな造りだが広さは十分、清潔感もある。夕食は電車の中で頂いたので、明日の仕事に備え、今夜は早めに床につくことにした。