2007年7月14日土曜日

Day3─ザンベジで水を飲む(ヴィクトリアフォールズ)

実はこの旅の中で、最も贅沢したのは、今泊まっているところかも知れない。この旅の目的は、5大陸の世界遺産をできるだけたくさん回ることだ(今回、スケジュールとフライトの都合で、北米大陸と南極大陸は行くことができなかったが、近い将来行ってみたいと思う)。アフリカで見たいところを1つ選ぶとしたら、ここになった。(もちろん、ナミブやピラミッドなど、行きたいところは山ほどあるが)

ヴィクトリア・フォールズは、アフリカ大陸を代表する世界遺産の一つだ。ナイアガラやイグアスは知っていても、ここを知らない人は多い。これら3大瀑布のうち、先の2つに比べて知名度が少なく、それゆえ、観光地化がそれほど進んでいない。したがって、宿泊先も不足気味だ。欧米からの観光客は数人でグループを組んで、滝から何キロも離れたロッジで自炊しながら何日もキャンプ生活をするのが主流のようである。

ホテルで泊まると相当の出費を覚悟しなければならない。しかし、僕の場合は、そうは言っていられない。ここを2泊で出なければならないからだ。当然、滝からもっとも近いところに泊まることになる。
ここだけは、ちゃんとしたところに泊まらないと、肝心の滝を見て帰る目的が果たせないから、日本にいるときに京都のJTBで宿を探してもらうことにした。すると、紹介してもらった唯一のホテルが、ここ「ザ・ヴィクトリア・フォールズ・ホテル」だった。確かに、日本の旅行代理店が紹介できるクラスのホテルとなると、ここのほか、最近できたもう一つのホテルくらいだ。しかし、その宿泊費となると、日本ですら払ったことのない金額だ。ただ、素晴らしい眺望と滝まで歩いて10数分で行ける好アクセスには代え難かった。

朝6時、普段より早く目が覚めた。昨日、何もせずに早く寝たからだろう。テレビも見ない、パソコンもしない、メールもしない、電話もしない、(正確には「できなかった」というべきか)のは何年ぶりか? 世界中で通じるのが売りの「ボーダフォン」のケータイもここでは無力だ。メールも電話も完全な「圏外」である。その代わり、2キロほど先の滝から出る水しぶきを背景に顔を出す陽の光といえば、想像を絶する美しさだった。ここで写真を撮るのに高度な技術は要しない。誰でも写真家にさせる魔力がここにはある。僕も、朝食を摂るのを忘れて、しばし写真をとり続けた。 

それから3時間たって、昨日予約しておいたラフティングツアーのトラックがピックアップしにやって来た。既に、トラックの座席には大半の旅行者が座っていた。ツアー費用を渡してトラックに乗り込むと、すぐに動き出した。トラックは国立公園に向かって進路を進め、やがてその入り口に至った。すると、それまでとはうって変わって、デコボコ道を左右に揺られながら進んでいく。速度も急に落ちた。

30分くらいしただろうか、突然現れた、だだっ広い、高台の平地に停車し、全員降りるように指示された。そこでウエットスーツとライフジャケットで身を包み、ひとり1本オールを渡された。数人ごとにグループになって、ザンベジ川に向かって急斜面を降りてゆく。ところどころ濡れて足場が悪くなっているところもあり、みな慎重に歩いていた。これが、僕のラフティング初体験。ラフティングデビューするとは、それもアフリカだとは、夢にも思わなかった。

ヴィクトリア・フォールズが欧米からの観光客に人気があるのは、実にさまざまなアクティヴィティーがあるからだ。ラフティングの他にも、ゴージ・ジャンプ(=バンジージャンプ)、ヘリコプター・ツアー、サファリなどなど、何日滞在しても毎日違うアクティヴィティーで過ごせるものが揃っている、いわば「大自然のテーマパーク」だ。

実は、僕はここに来るまで、ひそかにバンジー・ジャンプへの挑戦を本気で考えていた。しかし、ホテルから見える「ビクトリア・フォールズ・ブリッジ」の真ん中から垂れ下がる一本の紐が見えて、いよいよ恐怖感が芽生えてきた。結局直前になって、「2大アドレナリン・ライド」のもう一つである、ラフティングを選んだ、こういう訳だ。

バンジー同様とはいかないまでも、ラフティングでも十分スリルを味わうことができた。しかも、より長い時間体験できたといってよい。ザンベジ川からの水が溜まって緩やかな流れになっているところで、まずは急流に差し掛かったときの身の伏せ方や、転覆からの復帰方法などを練習する。そして、いよいよ急流が待つ本流へ繰り出す。途中20箇所近い急流のなかで、特に要注意ポイントが3箇所ほどある。その最後、通称「ターミネーター」では、ほとんどのボートが転覆する(ようにできている)。つまり、転覆前提のツアーなのだ。ボートの廻りには「助け役」のカヤックが数台控えている。まさか僕がそのお世話になるとは思わなかった!

「ターミネーター」に差し掛かったときそれは起きた-。 ボートが方向感覚を失うほど横に回転したかと思うと、今度は縦に回転し全員が投げ出された。メンバーは何とかガイドの助けを借りて復帰したボートに戻ったが、僕はボート側面のロープをつかみ損ねて瞬く間に数百メートル流された。一瞬、全身が川の中に沈んだ時に、大量の水を飲んでしまった。程なく待機していたスタッフに救助されたが、それまでの間、自分の身に何が起こったのか想像することができなかった。

一瞬のうちに水中を回転し、急流の中で方向感覚が失われてゆく─。これが、溺れるということなのかと、生まれて初めて、その恐怖を体験した。

その後は、緩い流れで推移し、2時間ほどのツアーは幕を閉じた。だが、実はこれからが大変だ。濡れたウエットスーツを返し、ライフジャケットとオールを持って、急な斜面を25分もひたすら歩き続ければならない。これが思った以上にこたえた。つい30分ほど前に「生きる(?)」ために体力を使い果たした直後の登山である。途中で何人にも道を譲った。それにしても、現地スタッフの体力には凄いものがある。自分は身につけているものを持って上がるだけでも大変なのに、彼らはラフティングにより水に濡れて重くなったボートを4人がかりで軽々と持ち上げて坂を登っていくのだ。ついに、その彼らにすら道を譲ることになってしまった。坂を上りきった後に、先回りしていたトラックが待機していて、昼食の準備も出来ていた。

あまりの疲れと渇きのため、ミネラルウォーターを3本も飲んでしまった。眼下を見下ろすと、あれほど急流だったはずのザンベジ川が、ここからはゆったりと流れているように見える。再びトラックに乗り、砂漠の道をひた走り、午後2時半頃にホテルに到着する。これで、ようやく、目的の滝に行くことができる。

滝から最短距離のホテルに泊まっていたことは幸いだった。滝への入り口は公園になっていて、夕刻には閉まることになっていたから、アクティヴィティーを十分楽しんだ後に滝に行くことができるのはこの場所ならではだ。今日は時間があまりないので、国境を越えずにジンバブエ側の公園に行く。黄色いポンチョを受け取り、滝に足を進めるにつれ、その意味がようやくわかってきた。僕がこれまで滝に対して持っていたイメージとは全然違うことが…。空は晴れているのに地上はいつも「大雨洪水警報」なのだ!

落下する水量があまりにも多いため、水しぶきが水煙のようになって数百メートルも上昇し、それが再び重力で落下し雨になっているのだ。だから真正面から滝をみると、写真集のような綺麗な画像は永久に撮れない。それどころか、まともに写真が撮れないほど、レンズが曇り、本体がズブ濡れになってしまうのだ。プロが撮った写真集の映像は、水煙の範囲が及ばない上空から撮っているから澄んで見えるのだ。あともう一日あれば、ヘリコプターツアーで上空から素晴らしい写真が撮れたはずだ。それだけが心残りだったかも。絶景ショットは諦め、目に焼き付けることにした。1時間半ほどの短い時間だったが、公園を後にし、宿泊先に戻った。


夕食時、漆黒の空に無数の星が見えた─。これまでもキャンプで里山に入って綺麗な星空を見たことは何度もあったが、これほど美しいものはかつて見たことがない。日本だったらどんなに山奥でも、車で2時間も走れば都市部に行き着く。車も数多く走っている。だから、空の澄み具合にも限度がある。それに比べて、ここは、都市から気の遠くなるほど離れている。車も数えるほどしか走っていない。ここがアフリカ大陸であることを改めて感じた。