2007年7月15日日曜日

Day4─パスポートと乗り換えで危機一髪!(ヴィクトリアフォールズ→ケープタウン)

朝5時-今日も早起きする。もう習慣になってしまったのだろうか、テンションが高くなっているからだろうか? 昨日同様、美しい朝日を浴びている庭を部屋から眺める。6時過ぎには荷造りを終える。10時のチェックアウト直後にはここを発たなければとは言うものの、だんだん欲が出てきた。折角ここまできたのだから、もう一度大瀑布をこの目で見てみたい。

こんな無謀なスケジュールなんて一人旅でしかできない。部屋に戻ったらすぐチェックアウトできるように、必要最低限の「超軽装」で出かけることにした。上半身はタンクトップを羽織る。Tシャツすら着ない。下半身はショートパンツにサンダル履き。ポケットにはデジカメとムービーとパスポート、それに最小限の米ドルの現金だけを持っていった。出発前に盗難にあっては面倒だから、ガイドブックに書いてあった、「手ぶらで歩くように」との勧めのまま実践してみた。

ホテルの庭から滝の入り口へはショートカットで行けるようになっている。朝はホテル側の出入り口の門が閉まっているが、僕が滝のほうへ行く素振りを見せると、門を開けて付いていってくれた。滝への入り口となる国立公園に向かうまでに、線路がある。公園に行くにはそれを横断する踏切を通っていかなければならない。ただし、その地理的条件をいいことに、地元民、特に少年がしきりにもの売りを仕掛けてくる。野生動物を模った置物を持ちながら、しきりに「ニッポンジン」「ワンダラー」「ワンダラー」と叫びながら…。彼らも観光客から収入を得ようと必死なのだ。日本では見かけない光景だ。特段身の危険を感じるわけではない。が、ここで一人歩きしているのは僕のほか見当たらなかった。結構チャレンジングなことをしていたのだろうか。後でガイドブックを見てみると、「単独では行動せず、必ず複数で出かけるように」と書かれてあった。しかし、こちらは一人旅。見ず知らずの人とすぐにグループを組める訳でもない。

それはそれで便利なものがある。先ほどホテルの門を開けてくれたのは、実は「プライベートセキュリティー」と呼ばれる、いわば民間の警備員だ。旅行者の安全と便宜を図ってくれる、実に頼もしい存在。踏切を渡る直前、彼が訊ねてきた。「滝を見に行くんだね、どっちにする?」最初、言っていることがよく分からなかったが、ほどなく気付いた。そして続く。「ジンバブエか、ザンビアか?」 すかさず、「今からザンビアに行けるのか?」と彼に聞いたら、「パスポートを持っているか?ならOKだ」と言った。「それなら、ザンビアに行きたい」

これこそ無謀そのものだ。ホテルのチェックアウトは3時間後に迫っている。それなのに今から国境を歩いて横断し、滝を見てから再び国境を渡って戻ってくるのだ。これまで随分無謀なことをして、そして多くを失敗してきたが、こんな挑戦はしたことがない。同行者がいたなら、この計画は一蹴されるところだろう。だが、一人旅だから、自分を止める者はいない。その代わり自己責任だ。

彼にこの先の国境線までの道順を教えてもらい、そこで別れた。この先、地図なし、ガイドブックなしでザンビアを目指す。トラックの隊列を横目に、こちらは快調に道を進める。15分くらい経って、ジンバブエ側の事務所で出国手続きを済ませると、その先には大きな橋が見えた。ホテルから見える「ヴィクトリアフォール橋」だ。ジンバブエとザンビアの国境線は、ちょうどこの端の真ん中で引かれている。しかし、橋の真ん中に国境事務所を構えるわけにもいかないから、その両側に両国の国境事務所がある。ちなみに、バンジージャンプのスポットはこの橋上だから、パスポートを持っていないと飛ぶことができないらしい。

そこから10分ほど歩けば、ザンビア側の事務所に着く。自分のほかに、何人か現地の人が大きな荷物を掲げながら橋を渡っていた。傍らにはほとんど列車の行き来がない線路が見える。ようやくザンビアの入り口に差し掛かった。国境事務所の係官が尋ねてきた。「これからどこへ? リビングストンか?」 リビングストンとはアフリカ大陸を探検しヴィクトリアフォールズ発見した宣教師で探険家のデイヴィッド=リビングストンに因んだ都市で、滝へのザンビア側のゲートウェイである。僕は、「ジンバブエのヴィクトリアフォールズに泊まっていて、滝を見たらまた戻る予定だ」と答えると、すぐに通してくれた。

国境事務所を越えると、民芸品売りのテントの列があり、ほどなく公園の入り口を示す看板が見えた。そして、リビングストン像の視線の先に巨大な滝の中腹からそびえる大きな虹が見えた。しばらく雄大な景色に見入ってた後、滝の落下点を探すべく、公園の内部へ歩を進めた。最初は緩やかで悠々とした流れなのが、百メートル先は既に激流となっている。信じられない光景。ここに足を滑らせて落ちればひとたまりもないだろう。早々と退散し、滝の両側を望むスポットに向かうことにした。

薄暗がりの森を進むにつれ、音がにわかに激しくなっていく。次第に上から霧雨が振ってきた。ちょうど、ポンチョを借りるところがあったので、借りることにした。ここでは深緑色だ。やがて路面が湿っているところに差し掛かり、ついには常時濡れているところに来た。そしてさっきの霧雨が雨になり、やがて大雨になってくる。もちろん空は快晴だが…。持ってきたムービーはもうズブ濡れだ。ポンチョも寒さをしのぐ程度の役にしか立っていない。数分の滞在でここを後にし、再び来た道を戻った。国境を渡り、チェックアウトの30分前にホテルに何とか戻ってきた。

ホテルの部屋で濡れた身体をぬぐい、パスポートを見せてチェックアウト。2日前にここに来たとき利用したエアポートタクシーを帰りも予約していたが、既に待機していたので、すぐに乗り込んだ。真っ直ぐの道を今度は空港に向かって快調に飛ばしていく。

10分ほど走っていると後ろから全速力で車が突進してくる。はるか後方にいたのが、目の前に来て、やがて併走し始めた。一瞬ドキッとした。そのうちに「プッ・プッ・プッ」と、クラクションを鳴らしてくる-。助手席の人が赤い手のひらサイズの物体を振りかざしている。「まさか!」 念のため、ズボンのポケットを確かめてみると「パスポートが無い!」 紛れも無い、赤い物体は自分のパスポートだったのだ! ホテルのフロントでパスポートを預けたまま確認を怠ってタクシーに乗り込んでしまったようだ。

ほどなくタクシーは緊急停止し、難を逃れた。この旅で始めてのピンチ。パスポートを届けてくれたホテルの従業員に感謝のチップを渡し、再びタクシーで道を進む。それでも空港には時間前に着くことができた。空港へ向かうタクシーの中で、ドライバーが「楽しんだか、また来たいか?」と訊いたので「ぜひまた来てみたい、というより、また埋め合わせしないといけないね」と答えた。もちろん、外交辞令ではなく、本当にまた来てみたいと思わせるのに十分なところであった。

現地のことわざに「アフリカの水を飲んだ者は再びアフリカを訪れる」というのがある。自分の場合は、本当にザンベジの水をガブ飲みしてしまったから、また来ることになるかも知れないと思いながら、次の目的地へ向かう。

ところで、川の水を飲んだおかげで、何か吹っ切れたような気がした。それまで、しきりにガイドブックに書いてあることを一字一句気にしていたが、だんだん馬鹿らしくなってきた。乳製品は口にしないほうが良い、と書いているが、川の水を飲んで翌日になっても下痢ひとつしない。早速、ヨハネスブルグ行きのフライトの待ち時間にアイスクリームをかじっている自分がいた。

ヴィクトリアフォールズから南アフリカのヨハネスブルグまでは2時間弱。昼の1時50分に出て、3時半着の予定。そこからは国内線で南アフリカでも南端の都市、ケープタウンへと向かう。ケープタウンから宿泊先のホテルへの足は、日本にいるときにインターネットで現地のガイドを予約し、細かなやりとりもしていたから、初日のような不安は無い。ヨハネスブルグからケープタウンは国内線だから、割と簡単にいけるだろう、1時間半もあれば十分乗継ができるだろうと疑ってやまなかった。まあ、中国あたりから関空を経由して、羽田に行くようなものだ、と思っていた。実はそれが大誤算だったのだが…。

ヴィクトリアフォールズの出発が少し遅れたため、到着も少々遅れた。しかし、それは想定の範囲内だった。問題はその後だったのだ! 順調に飛行機を降り、荷物を探す。10分、20分、30分…。まだ荷物は出てこない。40分経って、ようやく荷物が出てきた。ほとんど最後のほうだ。でもまだ僕は事の重大さに気付いていなかった。今度は国内線の移動だから、何てことは無いと思っていた。でも、ほんの片隅にだけ心配はあった。念のため、BA(ブリティッシュ・エアウェイズ)のスタップにケープタウン行きの搭乗券を見せた。

彼の顔が凍りついているように見えた。現在4時半、出発まであと30分しかない。このとき、僕は初めて、ケープタウン行きの飛行機が別のターミナルから出発することを知った。それも、ここから相当離れたところにあるようだ。彼は僕の荷物を持つと、短距離走者のようなすごい勢いで走り出した。僕は付いていくだけで精一杯だ。むせて咳をしながら、ターミナルの端から端まで走った。セキュリティーゲートも素通りする勢いで。ボーディングパスもVIPのような扱いで発行してもらい、何とか飛行機に間に合わすことができた。

彼の献身的な援助にお礼のチップを渡そうとすると、職務だからと言って、丁重に断られた。久しぶりに紳士に出会ったような気がする。おかげで、僕は最後のお騒がせ搭乗客にはならずに済み、席に着いてからは機内でゆったり過ごすことができた。

ケープタウンへの機上で珍しい風景に出会った。夕刻、日が沈むとき、赤い夕日と暗黒の夜とが境目になっているさま。この飛行機に乗れて本当に良かったと思った。

ケープタウンに着くて、用が無くなったドルの現金を、南アフリカランドに両替。夜7時を過ぎ、街へ繰り出す訳にもいかないので、できるだけ心配の種を残さないようにと…。

その後、予約していたツアータクシーの人が、僕の名前を書いたプラカードを掲げてくれていた。初めてほっとした瞬間。夜8時頃、市内のヴィクトリア・アンド・アルフレッド・ウォーターフロントにあるホテルに着くと、何か見たことのある雰囲気がそこにはあった。何てことは無い、先ほどまで同乗していたBAのキャビンクルーがチェックインしていたのだ。何という偶然!